東京・調布市の深大寺。東京にいながら豊かな自然を感じられるこのエリアに、バイヤーの山田 遊さんは2022年末、新居を構えました。山田さんは、インテリアショップ「IDÉE SHOP」のバイヤーを経て、method(メソッド)を立ち上げ、フリーランスのバイヤーとして活動を開始。国立新美術館のミュージアムショップ「スーベニアフロムトーキョー」や「made in ピエール・エルメ」など、誰もが知るショップの監修や商品MDに携わる、もの選びのプロフェッショナルです。

空間・プロダクトデザイナーの二俣公一さんが設計した住まいには、山田さんが選りすぐった家具や生活道具が。実は、カスタールのラグもそのひとつ。今回は、山田さんの新居にお邪魔し、お住まいのこととカスタールのラグを選んだ理由を伺うことにしました。

山田 遊さんの自邸のエントランス。アプローチからテラス、ギャラリー、土間空間まで玉砂利の洗い出し仕上げとすることで、室内外が続いているかのような伸びやかな空間に

カスタールのラグは、床座スペースに。

–– はじめに、山田さんご夫妻が家を建てようと思ったきっかけと、設計のコンセプトを教えてください。

山田 遊さん(以下、山田) 長く借家に暮らしてきたのですが、コロナ禍で家にいる時間が多くなったことで、間取りや壁紙、幅木などこれまで気にならなかったところにストレスを感じて、家をもちたいと強く思うようになりました。

自邸を構えるに当たり、大正から昭和にかけて建てられた日本の住宅の名作について勉強しました。そもそも日本の住宅って変わってますよね。空間は洋風なのに畳敷きの部屋があったり、そこで営まれる生活様式は和だったり。でもそれがおもしろい。それで自分の中で、アントニン・レーモンドや前川國男などが手掛けた住宅建築の名作にどこまで近づけるかがテーマになりました。これらの名作を100年後にアップデートするとしたら一体どんなものなんだろうと。

–– 確かに、この家には洋の要素も和の要素もあって、写真だけ見たらどの国に建つ家なのかがわからないような気がします。

山田 それは強く意識したことですね。丸みを帯びたむくり屋根や深めの軒は日本の建築特有のものである一方、外壁のベンガラ色はシャトー風とも言えます。文化学院の創設者であり建築家の西村伊作の自邸から特に影響を受けているのですが、ベンガラ色は西村邸の外壁に用いられている色でもあるんですよ。

実際に和歌山にある西村邸を訪れたのですが、2階がすべて和室の寝室で、その雰囲気がとても良かった。それでわが家の2階もベッドルームのわきに床座スペースを設けることにしたんです。でも、畳を敷くわけにはいかないのでラグを敷こうと。

1階のギャラリーからリビングを見る。棚の上には、山田さんご夫妻が選んだアートやオブジェがずらり

–– それで選んでくださったのが、カスタールのラグなんですね。

山田 はい。1階はギャラリーの機能もあるので、テーブルを通常の食卓よりも高めに設定しました。逆に2階は、ちゃぶ台に座るような視線の低い生活がしたいという思いもあって。二俣さんに2階で使うローテーブルをデザインしてほしいとお願いしたんです。

この家はまず外壁をベンガラ色にしようと決め、それを基準に内装や家具などの色を選んでいったんですよ。で、二俣さんが提案したのがこのブルーだったから、意表を突かれて。でもすごく良い色で気に入ったので、受けて立とうじゃないかと(笑)。

オレンジ+ブルー
“足し算”で色を重ねる

–– 立川のショールームにお越しいただき、たくさんのサンプルから選んでくださったのが、ハンドタフテッドラグ「Poppy 」の特注カラー「Sunset Orange」でした。このラグを選んだ理由はなぜでしょうか。

山田 やっぱり色ですね。これを見た瞬間、「わっ!」っと引き込まれました。多分、カスタールのなかでも特に激しい色使いじゃないかと思うんですが、オレンジとブルーが混ざり合う複雑なカラーパレットをひと目で気に入って。これだけ個性的な色を多色使いしているのも特徴的ですよね。「Poppy」では展開していない色を無理言って特注させてもらいました。

ブルーとオレンジ、グリーン、ベンガラ色のコントラストがユニークな2階。カスタールのラグを敷いた床座スペースは、山田さんの仕事場でもある

–– カスタールは注文を受けてから製作する受注生産ということもあり、要望にはかなり柔軟に応えてくれるんですよ。この色はもともと「Poppy」という製品を、パトリシア・ウルキオラに師事した気鋭のデザイナーのラケル・パチーニが再構築した「Poppy Cloud」で展開していたカラーです。オレンジのラグとテーブルのブルー、窓から見える外壁や窓枠のベンガラ色、ベッドリネンのグリーンとのコントラストがすごく素敵です。山田さんならではの色使いだと感じました。

山田 色を重ねる、足し算の考えをベースにしています。ふつうはこのブルーに食われるというか、ほかが見えなくなってしまうと思うのですが、カスタールのラグはきちんと主張している。このテーブルを受け止めてくれるのは、このラグしかなかった気がする。ほかにもいくつか候補があったのですが、赤や緑など既に家のどこかで使われている色でした。どちらかといえば保守的な選択肢で、引き算の考えだったかと。

–– 実は、日本の個人邸に「Poppy」のこのカラーを選んだのは、山田さんが初めてなんです。これまで商業施設などのパブリックな場所に提案されることがほとんどでした。

山田 でも、欧米の個人邸ではきっとふつうに使われていますよね。遊びがありながら、決して“異物”にならずに調和している。僕はそういうことがしたかった。でも、日本は引き算の文化なので、むずかしいのかもしれないですね。日本だと“整えよう”として、グレーやモノトーンに落ち着くことが多いような気がします。

1階のリビングからギャラリーを見る。吹き抜けは2階の寝室とつながる。ギャラリーでは不定期に作家などの展覧会を開催している

–– 山田さんが自邸を構えるとなると、周囲の期待も大きかったように思いますが……

山田 期待されていたかどうかはわからないけれど、 周りからは「攻めないの?」なんて言われました (笑)。確かに、守りに入ると悔いが残る。だから、迷ったら攻めました。この家に置かれているものは何ひとつ手を抜いてないし、だからこそお金もかかった(笑)。だって家を建てるなんて、一生に1回あるかないか。絶対に妥協したくなかったんです。はじめは守りだった妻も、どんどん攻めるようになっていったのはおもしろかったですね。

後編へ続きます(後編はこちら

山田 遊さん

バイヤー

東京都出身。 南青山のIDÉE SHOPのバイヤーを経て、2007年、method(メソッド)を立ち上げ、 フリーランスのバイヤーとして活動を始める。現在、株式会社メソッド代表取締役、 武蔵野美術大学造形学部工芸工業デザイン学科客員教授、東京ビジネスデザインアワード審査委員長、グッドデザイン賞審査委員。国内外の店づくりを中心に、あらゆるモノにまつわる仕事に携わり、多岐に渡って活動を続ける。 2013年「別冊Discover Japan 暮らしの専門店」が、エイ出版社より発売。2014年「デザインとセンスで売れる ショップ成功のメソッド」が、誠文堂新光社より発売。 これまでの主な仕事に、国立新美術館ミュージアムショップ「スーベニアフロムトーキョー」、21_21 DESIGN SIGHT「21_21 SHOP」、「GOOD DESIGN STORE TOKYO by NOHARA」、「made in ピエール・エルメ」、「燕三条 工場の祭典」などがある。 http://wearemethod.com



Yu Yamada, a freelance buyer who supervises the museum shop “SOUVENIR FROM TOKYO” at the National Art Centre Tokyo, and “made in PIERRE HERMÉ”, as well as product MD, had a new own house in December 2022. The location is Jindaiji in Chofu City, where he can feel rich in nature even though he is in Tokyo. The residence was designed by architectural and product designer Koichi Futatsumata.

When Mr. Yamada built up his own residence, he learned about the masterpieces of Japanese houses built during the Taisho and Showa eras. Japan has its own unique housing culture, with tatami mats in Western-style spaces and a Japanese lifestyle despite in the Western-style interior. He focused on these interesting aspects and set his theme to approach the masterpieces of residential architecture by Antonin Raymond, Kunio Maekawa and others. The rounded roofs and deep eaves are particular to Japanese architecture. On the other hand, the red oxide colour of the exterior walls is in the style of a chateau. His house is a unique blend of Western and Japanese architecture.

The ground floor is a public space with a kitchen, dining room, living room and a gallery with an earthen floor. On the other hand, the second floor is a private space with a bathroom, a bedroom, and a sitting on the floor space. As the dining table on the ground floor, which functions as a gallery, is set higher than usual, so the owner wanted to lower the eye-level on the second floor. Therefore, when Mr. Futatsumata was asked to design a ‘chabudai’ (low dining table), he suggested a table in a bright blue colour. Based on the idea of ‘addition’ concept of colour layering, Mr. Yamada decided to lay special color’Sunset Orange’ of ‘Poppy’ rug from Kasthall. It’s well eye-catching that the contrast between the orange rug, the blue low table, the red oxide exterior wall visible through the window, and the green bed linen. This is an unusual colour coordination in Japan, which has “an aesthetics of subtraction”.

Yu Yamada
Buyer 

Born in Tokyo. After working as a buyer for Idée Shop in Minami-Aoyama, Yamada founded Method in 2007 and began working as a freelance buyer. He is currently the representative of Method Inc. In 2013, Yamada was featured in a special issue of the popular Japanese magazine Discover Japan, titled “Kurashi no Senmonten: Yu Yamada’s Tokyo Shopping Guide” (Ei Publishing). In 2014, Yamada published The Method of Shop Success (Seibundo Shinkosha). Yamada works extensively as a judge for various competitions, including the Good Design Award, and is active as a lecturer for educational institutions and local industries. His past works include: The National Art Center Tokyo Museum Shop (“Souvenir from Tokyo”), the 21_21 Design Sight Shop, the Good Design Store Tokyo by Nohara, Made in Pierre Hermé Marunouchi, and the Tsubame-Sanjo Factory Festival.
http://wearemethod.com/

Photographs:Satoshi Shigeta(except last photo)
Text:Kyoko Furuyama(Hi inc.)
Creative Direction:Hi inc.